アクシデント

車で事故ったことが、2回ある。

 といっても俺が運転していたわけではないのだが。

 

 1度目は、地元のスタジオアリスの目の前で母が原付にポンとぶつけた。

 七五三の写真を受け取りに行っていたはずだから、おそらく5歳の頃だろう。

 水色のMOCOの助手席にブカブカのシートベルトをつけてちょこんと座り、慌ただしく移り変わってゆくフロントガラス越しの映像をあまり訳も分からずに眺めていたような。

 

2度目は、スマトラ島でのことだ。

 39ミリもあるフィルター無しの殺人タバコを1日1箱余裕で空にするDediという男にドライバーを任せていたわけだが、その事故は空港へと続く機械的に真っ直ぐな道路を進む最中に起こった。

 信号が赤から緑に変わり、アクセルを踏み始めて1,2秒経過した瞬間だった。

 1台の黒いバイクが、Dekiがハンドルを握るトヨタの黒いSUVの目の前に飛び出して来て、我らの車は必然的にバイクを1mほどぶっ飛ばし、バキ!!という不快な音が鼓膜を揺らした。

 幸いなことに、轢かれたバイクは倒れずに済んだし、車がまだスピードに乗っていなかったおかげで相手に怪我はありそうにない。

 まあそれでも日本なんかでは車を降り、か細いかすり傷に一憂し、一応警察に連絡するというのがマニュアルなようだが、彼らはそんな面倒な行為には目もくれず、お互い謎のアイコンタクトを5秒ほど交わした後、各々が目指す方角へとハンドルを切った。

 久しぶりに降りかかって来た事故の衝撃と、異文化の現実を真正面から突きつけられた衝撃とに驚いてリアルに開いた口が塞がらなかったが、1分も経つと助手席のレディーは「This is Indonesia ♪♪」なんて言って陽気に笑いかけてくるし、Dediは鼻歌歌いながらタバコをふかし始めるしで、ほんとにここはいい場所だ、いい場所だ、と何度も胸の内で繰り返した。