例えば車で信号待ちをしている時のような、他人に見られると恥ずかしいくらいの無の表情を曝け出している時に、人生で5本の指に入ろうかという面白いエピソードが唐突に出現してきて、隣の車窓からの視線を気にしながらひとりで笑っていることが結構ある。特にここ最近。

出現回数が多分一番多いのが地元の友達の話で、そいつが沖縄に出張した時のことだ。そいつはその出張が初沖縄で、そのことも相まって気分が良くなっていたのか、職場の先輩と一緒になってステーキやなんやら飯を食いまくったりパチンコを打ちに行ったりしていたらしく、現金として持ってきていた数万のほとんどを使ってしまったらしい。その時点でまだあと数日の滞在が残っていたから、金を引き落とすために財布を握りしめてゆうちょのATMに行き、お馴染みの緑のキャッシュカードを財布から抜き出したその瞬間、出てきたのはそれに色味がよく似たファミマのTカードだったっていう話。しかもちょうどクレカの磁気を飛ばしていてどうすることもできないそいつはあまりに絶望し過ぎて頭がおかしくなり、国際通りをそこが国際通りだと気づかないまま1, 2時間さまよっていたらしい。しまいには、国際通り沿いのマックでなけなしの数百円を捻出して注文し、貧乏ゆすりをして頭を抱えながら「だるいわーー」とぶつぶつ呟いていたそうだ。俺がちょうどその日にそいつと飯を食いに行く約束をしていて、おかしくなってしまった頭を引きずって動揺を隠しきれていないそいつに爆笑しながら5万ぐらい貸してあげた思い出。そいつはその後も何度か出張で沖縄を訪れているわけだけど、毎度飯を食いに行くたびにゆうちょのカードを持ってきているかを俺が真っ先に確認するのが恒例のノリになった。何度も沖縄を訪れている人間で、2回目でやっと国際通り国際通りだと認識した人間はそいつが史上初かもしれない。今思い返すと、レイクかどっかにそいつを引っ張り込んで金を借りさせたらもっと面白かったんじゃないかと思う。

そいつとは飯に行ける距離まで近づいたらすぐさま約束をするぐらいの関係性で、多分こんな関係性が一生続くんだろうと思う。互いに柄にもなく何かの間違いで結婚なんてしちゃったとしても、互いに丸まることのないようにゲロの話とかセックスの話をしていたい。狭い空間に収まることなく、突発的な思いつきに全信頼を寄せて車を遠くまで走らせ、一生爆笑できるような出来事を呼び寄せていきたい。その途中で車が大クラッシュしたとしても、あの世で「死んじゃったなーー」なんて言いながら爆笑していたい。

高校の友達の話もまあまあ出現回数が多い。彼女は大学生活の中でずっと居酒屋でバイトをしているわけだけど、そんな彼女が出来上がった料理を手にして注文先のテーブルのあと一歩手前まで来たという所で、超絶ベタに足がつまずいたか何かで運んでいたカキフライを辺り一面にぶちまけたという話。事の展開がベタすぎて鼻血が出そうなんだけど、訳がわからないことがあるもんで、ふと気を抜いた瞬間にそのエピソードが何度も飽きることなく出現してくるもんだから、俺も俺で立ち会ってもいないその瞬間の妄想のリアリティを高めるみたいな遊びをしている。ぶちまけた瞬間を想像すると何度でも笑える。

彼女とも多分随分と長い付き合いになるんだろうな。彼女も俺もとりあえず院進することになったから、社会に組み込まれちゃう前にもう一度ぐらい、働くのだるいねーー、なんて話しながらスノボにでも出掛けたい。

 

結局、ここで書いたどっちの話も、その面白さというのはその人の人間味みたいなものを知らない限りあまり笑えるような代物ではないし、俺自身も友達から俺が知らない人間のエピソードを聞かされた所で、俺にできることといえば目の前のグラスの空きを確認して真顔のままレッドアイを注文することぐらいだけど、まあ、腹が捩れるぐらい爆笑するのは最高ってことだ。爆笑しながら、本来であれば退屈で間延びするはずだった時間を一瞬にして駆け抜けるのは最高ってことだ。一生身体に跡が残るような出来事にぶち当たるのは最高ってことだ。