30042021

過疎

無機質

昭和の抜け殻

久しぶりに訪れた北九州では、そんな言葉が頭の中を飛び交った。

夜、酒が飲みたくなってフラフラと商店街を歩いてみても、シャッターを上げている店は片手で収まる程度。アルコールを出さない店は見当たらず、ろくに飯も食えない。てきとーに入った居酒屋の大将は、近くにあったほっともっとや資さんうどんさえも潰れたって寂しそうに言った。ここは、面積あたりの高齢者人口の割合が飛び抜けて高いとも。そもそも、一番の光源がパチ屋の街はどう考えてもオワっている。歩けど歩けど、体温を感じない。あまりのがらんどうぶりを直視したくなくて目を覆っても、既に脳内に侵入している冷え切った街の光景は、脊髄を通り抜けて身体を芯から冷やしていく。

あーあ、せっかく冬が過ぎて末端冷え性が治ったと思ったのに。

というか、うどん屋のくせになぜかおはぎがバカうまい資さんうどんが、ありがたいありがたい24時間営業の資さんうどんが、そもそも北九州発祥の資さんうどんが、北九州の地域から撤退するなんてマジかよってことをずっと考えていた。というかそれぐらいしか考えることがなくて、それぐらいしか考えられなかった。

駅前には、俺の人生史上一番デカくて長いイオンモールが聳え立っていて、なんだかそれが街全体に蔓延するウンザリ感を増幅させてしまっている気がしてならなかった。無様だよな、イオンモール。イオンのスーパーじゃなくて、イオンのモール。モール。mall。無様。デカくなればなるほど、かっぺ度合いが増していく。かっぺ度合いの指数関数的増加。すごいよな、イオンのモールのサイズを見ただけで地域のかっぺ度合いを一瞬で悟ってしまうことができるんだもんな。研究者とか政府はわざわざ人口の統計をとって過疎具合を評価するんじゃなくて、イオンのモールの総売り場面積か何かで評価したらいいと思った。

 

なんでいきなり北九州に行ったかというとそれは博物館に用事があったからで、その用事の最終日にはよくしてもらった職員の方が「視察ってことにしときますから」と耳打ちしてきて、タダで中の展示を見ることができた(外面作り笑顔、内心お祭り)。博物館は小学校低学年ぐらいの時、つまり15,16年前に1回だけ行ったことがあって、微かに残るノミサイズの記憶を引っ張り出してきて今現在の展示と照らし合わせていたけど、なかなか合致しなかった。ノミサイズの記憶には、ティラノサウルスの頭骸骨がショーケースに展示されていた光景が確かに残っていたけど、今はそんなものは見当たらず、無数の恐竜の全身骨格が屹立していた。後で職員の方に聞くと博物館は10年前にリニューアルされたらしく、昔の記憶とは全く別の光景を見ていたみたいだった。恐竜に関して言うと、昔みたいなショーケース越しの展示じゃなくて、低い柵はあるけどブツを全て生で見ることができるように展示されていてめちゃくちゃ良かった。日曜でガキがいっぱいいて、手の届く骨は片っ端から触りまくってたけど、、笑。ガキといえば、俺が蝶の標本の展示を見ていたら5才ぐらいの男の子が突然後ろから喋りかけてきたから、一緒に好きな動物の話や、俺は今じゃもう全くついていけてない戦隊モノの話を15分ぐらいしていた。まだ話は支離滅裂だったんだけど可愛かったから、親が来るまでずっと話していた。その子とは喋った瞬間に、纏っている空気の波形がすごく近いような気がしておもしろかった。あるよね、こういう事。ほんのたまーーにだけど。これをオードリーの若林は音叉、リリイシュシュのすべてではエーテルって表現してるよな。

ガキの話はもうひとつあって、それは博物館にある哺乳類の展示スペースでのこと。スペースの一角にはアザラシ、アシカ、トドといった海獣の剥製が展示してあって、俺はスペースのパネルに書いてある、アザラシとアシカの耳の違いに関する文章ををぼけーっと読んでいた。そしたらスタイルいい感じのお母さんに手を引かれて小さい男の子がやってきて、すごいねー、かわいいねー、とか言いながらアザラシ、アシカの順で展示を通り過ぎていった。俺は、やっぱ子どもかわいいよな、とか思いながら親子を横目でチラ見していると、その親子は海獣スペースの最後に君臨する、まるまると肥えたトドの剥製に差し掛かった。すると、その男の子は何を思ったのか真面目な顔で突然、

「なんかママみたい」

とか言い出すから俺はもう

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

ってなって噴き出そうにも噴き出せず、恐竜が目玉の博物館の、特に盛り上がってもいない哺乳類スペースの片隅でひとり必死になって笑いを噛み殺していた。

おもしろいじゃん北九州。