逃避先にて

スマトラ島の都市、メダンに行ってきた。

 

また逃避だ。

 

しかし絵の具をぜんぶ混ぜて作り上げたような混沌とした世界に身を投げると、皆と同じ方向に顔を向けてしまっている遣る瀬無さから解放された気分になって笑みがこぼれる。

 

 まだ勝手がわからず彷徨う俺を、おおきくて澄み渡った目を持った笑顔で皆が迎えてくれた。

 

底を尽きることのない知識とユーモアと共に1週間もガイドしてくれたNchaiとDedi。

 突発的に踏み込んだ客のいないレストランで、お互いあらん限りのボディランゲージを繰り出して会話し合った青年。

 大好きなナショナルジオグラフィックについて語り合った空港職員のおじさん。

 胸のタトゥーを見て、コールドプレイのジャケットみたいね、と言ってやわらかく微笑んでくれたレディー。

 

今回出会った人たちは、ウラのない優しさを与えてくれたなあ。

 

自分でさえも手が届かないほどの心の深淵な場所で、何かしら疑いの武器を手に接してしまう俺は、こんなに優しい人たちに囲まれてしまうと一瞬どんな顔と態度を作り出したらよいのかわからず、少し遅れてぎこちない笑顔を返すのがオチだ。

 

こんなに人間味のない表情をしていても、さらに感性に磨きがかかるようなことがあれば、誰かさんの右脳に一発喰らわせられるようなことがあればいい。