昭和生まれ

10年や20年、早く生まれることができていたら、と無理な空想を思い描くことが度々ある。

クラッシュのComplete ControlのMVを再生して一気に酔いが回った時。

エルレのSupernovaの疾走感に衝撃を受け、虹を聴いて自分の内側を深く見つめ返した時。

普段は音楽っ気のない母親から、ブルーハーツやプリプリに夢中になった若い思い出を聞いた時。

弔い後、年季の入った大きなちゃぶ台を囲みながらの酒の席で、あの刺々しいミッシェルやrosso、ルースターズの熱狂を親戚が語ってくれた時。小綺麗なシルバーのDRUM LOGOSなんてまだ無くて、ボロッボロのDRUM B-1で観たバンドのことを静かに、丁寧に記憶をなぞりながら、18歳のような瞳をして教えてくれた時。

zeppなんてものはまだ存在せず、息の詰まりそうなライブハウスしかなかったその当時、その場に駆け込んで、修羅の国の荒々しい客層の中に立ち向かって行けていたら、と虚ろな目で湿っぽい和室の天井を眺めた。初めは九分ほどもあったウイスキーの瓶はもうすでに数滴しか残っていなかた。わかばを絶えず吹かす大叔父が、ウイスキーをビールで割るアブナイ遊びを教えてくれた。

こんな俺の日常での音楽的な愉しみといえば、Apple Musicで上手くいけば50年昔までトリップすることや、親しい女性のアパートで、真夜中、肩とグラスを寄せあいながら、美しいノイズ混じりのレコードを爆音で聞くことくらいだ。

いや、最近はサイケにも没頭しているか。今最も尖っているのは彼らだ、と思う。

 

そんな中、宮古島エルレが来るという知らせが入り、友達と一緒に行くことにした。日差しがどこもかしこも突き刺さるような晴天の日で、引きこもって本ばかり読んでいる俺の肌は早々に悲鳴をあげていた。

エルレの生音を捉えることができるなんて、あと数時間後に現実となる事実にどうしても真正面から対峙することができず、左手に持っていたビールに視線を逸らした。

虹が1番だった、と思う。

早く生まれてなくてよかった?のかもしれない。