レジスターに不恰好な半透明の仕切りが設置されたスーパーで買い物をしていた。頑固そうで他人との距離感を未だに掴めていなさそうなお爺さんが何も持たずにレジスターに向かって歩いて行ったかと思うと、一言、「煙草ちょうだい」と。そのままスタスタと帰…

無用の用

故郷でも疫病が蔓延してしまっていて、通ってた高校のすぐ近くの病院でも院内感染が起こったらしく、見えない敵は見えない角度から脆い人間の身体を蝕もうと企んでいる。ネットをたらたら眺めていると、高校の同級生の父親はこの疫病に葬られてしまったみた…

夜明け

映画のように完成され尽くしたストーリーの夢を見た。記憶はあてにならないから細かいところは忘れたけど。数あるデジャビュの夢のひとつ。回数を経るごとに話の完成度が高まっていく。日頃獲得しているがらくたみたいな経験は、ただのがらくたとして捨てら…

浮遊

意欲の湧いてこない日々が続いている。時計台の鐘が空間を打ち鳴らすような一定のサイクルで欲が出現してきては、一瞬の豊満を得て消えてゆく。その繰り返し。熱を帯びていない、客観的な生活。愚劣なマジョリティの流れに乗るなんてことは決してないが、心…

南からの香り

2020年2月29日現在、コロナと命名されし原核単細胞生物が地球を征服せんとし、アジア圏を中心にその生息域を拡大している。今日のLCCの発展や、明らかにこの星のキャパシティを超越した人口密度が助長し、拡散の速度たるや日本政府の想定より×10程であっただ…

06122019

坂本慎太郎を観た。桜坂セントラル。 楽しみにしていた彼の服装は、ライブ直前に話していたヨレヨレののTシャツじゃなくて、ヨレヨレのジャケットだった。 ライブの中盤頃になって、 「そのジャケットの下に来ている白いシャツは肌着なんじゃないか」 とか …

01122019

<インドで書き残したメモ、もしくはインドが俺に書き残したメモ> インドの人がストーリーにカレーを載せるとカレーだらけのストーリーになるのかな。スワイプを何回も繰り返してもカレー、カレー。スマホのマイクの中からカレーの匂いがこみ上げてきそう。…

無防備な自分を求めて

大好きな写真家に三井昌志という人がいて、この人がTwitterで 「あなたが遭遇した親切なインド人、正直なインド人」のエピソードを募集します! というツイートをしていて、皆それぞれが、インド愛を更に加熱させるきっかけとなったであろうエピソードを無数…

忘却

年間で本を幾冊も読んだり、好きな人のブログを無数に読み漁ったりして、その人たちが捨て身になって、身体をボロボロにしてまで俺らに伝えたかった言葉を全身で受け止めることができても、日を跨ぐと、いとも簡単に、その言葉を記憶の渦中から抜き出すこと…

日中、色々と用事をこなして、そのうちのひとつの用事は半ば失敗に終わって、ため息交じりに厚紙みたいな雲で覆われた空を眺めながらガラムを吸って、家へ帰ってベッドで独り、無の状態に陥っていると、またあいつが唐突に心臓を掌握してきて、シーツが濡れ…

帰省のはなし

今年も、毎年の例に漏れず故郷で年越しを迎えた。 中学の友達とは拉麺と焼き鳥を食べに行った。 拉麺は平日昼間でも行列が絶えないぐらいの人気店で、今回は大晦日に行ったのに1時間近く北風に晒されていた。普段はぬくぬくとした場所に住んでいるから、指先…

ここ1ヶ月ぐらいは下から足を引っ張られ、上から手を引き上げられ、その力が平均するとちょうど同じぐらいでなんとか真ん中と呼べる位置にとどまっていたような、そんな感じだった。 下の方にいるのは、これから否が応でも組み立てていかなくてはいけない全…

小さい頃から高校生ぐらいまで花粉蓄膿で年中鼻水かみまくりみたいな生活だったんだけどその代わりお腹はめっぽう強くてちょっと腐りかけた物飲み込んじゃったり地面に落ちたものを拾い上げて口に入れたりしても腸は余裕綽々でびくともしなかった。日本から…

少ないけど、尊敬している人が何人かいる。 会ったことがある人も、ない人も、もう死んでるのに一方的に慕ってる人も。 物書きだったら太宰、写真家だったら任航、バンドマンだったら細美武士や小山田壮平、あとは親戚かなあ。そんくらい。 彼らに共通してい…

27102018

街灯を滅多に見かけない、相手を選ばずに一切を飲み込んでしまいそうな闇に取り憑かれた夜道を、hと指を荒く絡ませ合い、肩を幾度もぶつかり合わせながら千鳥足でゆらゆらと歩く。方向感覚や距離感を掴めなくなってしまった脳はとても重い。こんな時にしか子…

金剛石

雨季で観光客が少ないせいか、この日は広いゲストハウスに泊まっているのは俺一人だった。 月がいちばん輝く時間帯を見計らい、自然とつながるべく、独り建物の屋上へと向かった。 辺りには、瞼を閉じても入り込んでくる強すぎる街灯の光は皆無で、暗闇にし…

未完成

雨季。コルカタ。 長いトランジットを乗り越えてたどり着いた空港にある唯一のATMの画面に映し出された"out of service"の文字。手抜き工事がもたらしたスコール後の洪水。いたるところに吐き出された赤い唾液。地面に這いつくばって金属の小銭入れをカンカ…

diamond

外界との境界線は消え去った。 空気となって大気中を飛び回り 水となってガンジス川を流れた。 自然と一体化し、完璧なまでに調和のとれた世界にいた。 甲高いヤモリの声が部屋に響き渡れば、その鳴き声となり、 嘲笑うかのような鳥の鳴き声が半崩壊のレンガ…

瞼の裏側

幾度も経験を積み重ねるごとに、驚きや感嘆の表情は表に現れないようになり、水晶はどす黒い小石へと変化し、地平線に沈みゆく太陽を映し出す鏡のような瞳には次第に影が差してくる。 いつの間にか取り払われていた幼心をもう一度奪い返したい、とは誰しも思…

車と音楽

台風が近い中、飛行機に乗って大好きなバンド、尊敬する人を観に行った。 まだ梅雨前だというのに、すっかり梅雨を通り越したような空に覆われていた。 会場から数百メートル離れた駐車場にレンタカーを停め、豪雨のように降りしきる太陽光をかいくぐりなが…

nostalgia!!!!!

今にも押し潰されてしまいそうなお店に足繁く通うのが、好きだ。 ジャンルは問わない。 CD屋だって、飲み屋だって、ラーメン屋だって。本屋だってそうだ。 明日、道路拡張の通達が来てすぐにでも立ち退きを迫られるかもしれない。 カネが尽きて店主が飛んで…

内向的薄暮

薄く汗をかいた肌にまとわりつく湿気が不快で目が開く。 陽はまだ上る気配はない。 隣の友達の純白でしなやかな腕は、重力で俺の頚動脈を薄弱に圧迫する。 手荒くそれを払いのけ、再び瞼を閉じる。 目覚めはいつでも太陽とともにある方がいいに決まっている…

苟且

美しすぎて涙がこぼれそうなほどの青空と乾いた空気を打ち鳴らす蝉の声を感じ、あゝ夏到来。 ちょっぴりと塩分の混じった風に吹き付けられながら運転する。胃の中と脳みその中がぐるぐるごちゃごちゃと回転している。これはギリギリ飲酒運転かも... 晴れ渡っ…

K

また沈み込んでいる。 波形の最底辺にいる。 近頃はかなり安定していてきたと思っていた。 上がり過ぎれば、その分代償がでかい。 鼓動が疼きだし、何時間も何時間も底から這い上がれない。 無意識に太宰の方向へと手が伸び、、嗚咽。 吉田棒一氏のHORSESを…

ダウン

昨日は観光地の奥深くで、久しぶりの人や初めましての人とたくさん楽しいお話ができてとってもとっても楽しかったな。 久しぶりにディープな音楽の話をしたり、公園で猫を撫でたりして、鳥が鳴き始めるまで喋り続けた。 やっぱり知らない世界に導いてくれる…

無題

ゴールデンウィークの真っ只中、母親から突然親戚の訃報を受け取り、故郷へと大急ぎで飛んで帰った。全くもって想定などしていなかった事実に対する焦りと悲哀とが、幾何学模様のように頭の中を規則的に駆けずり回っていた。受け取った文面をじっと見つめ、…

深く潜る

ウイスキーに手を出したきっかけというのは、ただ業務用スーパーで格好の良いグランダッドのラベルに惹かれただけなのか、スラッシュがジャックダニエルを愛しているのを幼心に模倣してみただけなのかは定かではないが、たぶんそのどちらかであろう。それか…

トリップ

埃で霞んだ窓の外が激しい銀世界であったとしても、悪臭つきまとい汚濁した河川の辺りに突っ立っていたとしても、ごくありふれた無欲なアスファルトの上をトコトコと駅に向かって歩いていたとしても、外界の変化には全くもって無関心な世界が無意識の中に存…

昭和生まれ

10年や20年、早く生まれることができていたら、と無理な空想を思い描くことが度々ある。 クラッシュのComplete ControlのMVを再生して一気に酔いが回った時。 エルレのSupernovaの疾走感に衝撃を受け、虹を聴いて自分の内側を深く見つめ返した時。 普段は音…

40's のように

今日は湿度が跳ね上がっていて、何をするにも不快感が伴う日だった。 特にどこかに出かけるわけでもなく、今にも喚きだしそうな灰色の雲をちらちらと眺めながら小さな用事をいくつかこなした。 日が落ちた。 湿気を含んで冷たくなったベッドに横になりながら…